NV ヴァザール・コカール・エ・フィス　ブリュット・レゼルヴ　ブラン・ド・ブラン　グラン・クリュ・シュイイ　コート・デ・ブラン　シャンパーニュ/フランス 月曜日のワイン。 少し肌寒さを感じて、熱燗をいただきながら晩ごはんを食べた後、「何か物足りない…」という連れ合いのリクエストで、シュイイ産グラン・クリュ 100%のシャルドネによる、ブラン・ド・ブランのシャンパーニュを開けました。 このワイン、意味がわからないほどバカ安の、シャンパーニュ3本セットの中の1本で、作り手のヴァザール・コカールは、全く知らない生産者。家族経営のレコルタン・マニピュラン（RM）だそうです。 バックラベルによれば、ティラージュは2018年の5月でデゴルジュマンは2020年の1月、ドサージュは6.5g/lとあります。 比較的熟成の浅いシャンパーニュのようなので、グラスはザルトの白ワイン用を選択しました。 外観は、微かに緑がかったペールイエロー。非常にクリアで明るく光沢感の強い見た目。 泡は非常にきめが細かく、絹糸のような幽けきラインを描いて立ち上がります。初速はそれなりに勢いがありますが、持続性はそこそこという印象。 グラスに鼻を近づけると、レモン、白い花、リンゴの香り…ブラン・ド・ブランど定番の青リンゴというより、未熟な赤リンゴの香りといった感じです。 口に含むと、すっきり爽やかで調和の取れた味わい。 特に個性的な酸の効き具合が気になりますが、タイプとしては柑橘系ではなく、熟す前の紅玉のような、生真面目だけど、どこか優しい緩さを残したリンゴの酸。 見た目通り、泡はとても繊細なタイプ。 敢えてガス圧を落としているのかどうかはわかりませんが、柔らかな刺激が実にセンシャルな蝕感を生み出しています。 全体としては、サッパリした味わいですが、上品な旨みも高濃度で配合されていて、あっさりしているのにコクがあり、シンプルなのに複雑な味わい。 香り、味わいともに、薄いレイヤーをいく重にもまとったような重層的な仕上がりで、グラスに口をつける度にレイヤーの階層が変わり、異なった個性を見せてくれるようです。 ブラン・ド・ブランによくある、酸で引っ張る余韻ではなく、微かな香ばしさとほろ苦さを伴った、落ち着きのあるエレガントなフィニッシュ。 極めて洗練された旨みが後を引き、口の中でジワーっと拡がり続け、ここでも変幻の妙を見せてくれます。 いやあ美味しいですね♪ これぞ大人の味わいです。 一見シンプルなのに、思いがけない複雑さや変容ぶりで飲み手を魅了するこのワインに、ミニマルミュージックを合わせてみたくなりました。 自身が名ピアニストでもあったドイツの作曲家、ハンス・オッテのピアノ曲「響きの書（The Book of Sounds）」をオランダのピアニスト、ラルフ・ファン・ラートが録音した同名のアルバム『The Book of Sounds』。 耽美的というか唯美的といえばいいのか、響きの美しさのみに心を寄せてつくられた純度の高い美音の世界というべき曲想ですね。 曲といっても明確なメロディはなく、スケッチのような最小単位の音の連なりを旋律として繰り返す、心地よい響きのシークエンスが12のパートで積み重ねられていきます。 ファン・ハートは、ミニマル王国・オランダにあって、特に現代音楽の分野で高い評価を受けているピアニスト。シンプルな旋律の反復と変容を、細心の注意を払って演奏しているように思います。 繊細な音色のパレットのようなアルバムと変化に富んだ表情を覗かせるブラン・ド・ブランのシャンパーニュの組み合わせは美しい共鳴を生み、その木霊のような反響がまるでひとつの作品のようです。 実に素晴らしいペアリングを見つけることができました…ブラヴォ！

iri2618 STOP WARS