20年以上も前、「パリ」で最初に自然派ワインのワインバーを始めた男、ジャンピエール・ロビノ。 今や自然派のトップであるマルセル・ラピエールやマルク・アンジェリ、ティエリー・アルマンなど、当時は全く知られていなかった生産者を広く紹介したのが彼でした。 そんな彼が自分の出身地で自分の手でワイン造りをしたいと故郷で 土地を入手、初めてワインをリリースしたのが2002年。 これまで長く生産者たちと付き合ってきただけあって、知識もコンセプトもしっかり持つロビノのワインは、当初ごく少量生産でしたが素晴らしくナチュラルで旨みたっぷりのワインとして注目を浴びました。 ジャンピエールの人生は波乱万丈、パワー全開。 そのユニークなことは、どの生産者にも勝ること間違いなしです。 もともとロワール中部の街、トゥールから北に40kmの小さな村、シャエーニュの貧しい家に生まれた彼は17歳で家を出てパリで配管工として働き始めます。 そして25歳の時、人生を変える出会いがありました。フランスで絶大な人気を誇るワイン雑誌「ルヴュ・デュ・ヴァン」の創始者で作家のミシェル・ドヴァスと出会い、彼の紹介でワインガイドブック「クラスマン」の主宰者ミシェル・ベタンと知り合ったのです。 それまでワインに何の興味もなかった彼でしたが、ビオディナミの祖、ジュール・ショヴェの造った1970年代のワインを飲んだ瞬間、「すごい！」と体中がしびれるほど感動したといいます。 それからは、配管工をしながらミシェルたちと共にワインガイドブック『ルージュ・ブラン』を創刊、産地の特徴を持った個性豊かなワイン、土地に埋もれている素晴らしいワインを捜し求めて飲み、ワイン紹介の原稿も執筆しました。 そうして見つけた生産者たちを次々に紹介していくうちにワインの世界にどっぷりつかり、生産者たちの人柄にも魅力を感じるようになった彼は、愛するワインをもっと広めたいと1988年、パリに自然派ワインバー「ランジュ・ヴァン」をオープンしました。 ピエール・ブルトン、フィリップ・パカレらに注目し、彼らのワインを紹介した最初の人がロビノだったのです。 こうしてパリのワインファンの間に自然派ワインが少しずつ広がっていったのでした。 忙しくワインバーを切り盛りしながら、彼の扱うワイン生産者を訪ね、畑やカーヴでの仕事を手伝うことを続けているうちに、ワイン造りをごく自然に覚えていきました。 こうして10年ほどたった頃、「田舎に住みたい。自然に戻りたい」と思い始めました。 何事も決断の早いロビノは、人気沸騰中のワインバーを即売却！南仏などあちこち探した結果、故郷であるロワールに戻り、ワイン造りをすることを決意します。 「ここは素晴らしいテロワールだって知っていたからね。穏やかで静かで安らぐしその上、豊かな土地なんだ。とはいっても、ワイン造りは最初は本当に大変だったよ。造りたいワインも醸造の流れもわかってはいたけれど、知っていることをどう実行するか、自分ができることをぶどうの木にどうやって伝えるかが難しかったね」 そしてついに完成したときは、本当にうれしかったとか。 「ワインは魔法の飲み物。本物の自然派は飲んだ瞬間、水の記憶がよみがえってくるんだ。ワインがちゃんと自然の力だけで造られていると水のピュアさが感じられる。いつもそれを目指しているんだよ」 弱めの泡。 梅、お香の香り。 余韻は短い。

WINE NINJA